− 1988年 夏 一
俺たちニ人・・そう、清道と俺は、照付ける太陽の下、北へ進路をとっていた。
久しぶりの宛ての無い旅だ。
甲府で昼食を取り、ついでに宿の予約をした。
そして、俺たちは安房越えを試みる。宿は、その先の奥飛騨温泉郷とした。
フオーン!キーン!フオーン!キーン!
乗鞍をバックに、起伏の激しい荒れたアスファルトのヘアピンをあいつのVTと
俺の忍者が駆け上がっていく。
旋回性重視の清道と立上り重視の俺とのクロスラインが各コーナーごとに
描かれていく。
”なんということだ!”安房越えの途中、俺の忍者が音をあげる。
途端にラジエターのブローバルブからクーラントが吹き出す。
ヒートとしたマシンと体を冷やすため、パーキング・エリアでしばしの休戦と
なった。ブラックメタリッタに全塗装された俺のGlは、車体全体から陽炎が
立ち上ぼっている。
あいつのVTは、快調そのものだ。
初期型VTとしては、それとはらしからぬパフォーマンスを見せる。
外観は、低くオフセットされた”F”のアッバーカウルにトマゼリのクリップ
オンがセットされている。
ステップは、マッド・マックスばりに大きく後退した”清道スペシャル”だ。
このポジションでは、普通、1時間程で膝の感覚が失われるのだが、清道に
とっては好ポジションと成っている。
それは、あいつ自身の足の長さに秘密があるようだ!
まっ!人の事はいえないが・・・・・・・・・。
15分程の休息の後、”ゆっくり行こう!”ということで出発したのだが、
まもなく、中学校時代の持久走と同じ展開となった。
ブォオオオオオオオオーン!
無事安房も越え、温泉郷入口付近で一息ついたところで、またまたトラブル。
忍者のリヤタイヤがパンクだ。
まっ!パンク程度では、二人にとって正味15分程度の作業だ。
トラブルと言う程ではないが、これが”カワサキ”だと主張する忍者につくづく
嫌気が差したのは事実だった。