『コージ!ここだけの話にしてくれ・・・』
と、いつもの昼休み、清道がひそひそ話で話しはじめた。
『俺、・・・4月1日からシンガポールに決まった・・・・・。』
俺は、一瞬、言葉を失った。
平成7年も終わろうとしている12月初めの事だった。
『ばかやろー!俺は、聞きたくなかったぜー!・・・・・』
と、言ったものの清道を見ることができなかった。
一番辛いのは、清道であることが分かっているのだが、素直に言葉に表すことが
できなかった。
『正直いってー!俺には、重すぎる。どーすんだよ!・・・・』
”まずい!言っちまったー・・・清道を・・・・”
”わかってる!わかってるってー!でもよー・・・・・”
『・・・・・・・・・・・・・・。』
清道は、黙っていた。
次に俺の口から出た言葉は・・・
『チームは、どーすんだ!・・ロードキャプテンは!・・・・』
”ばか!俺は、何てことを・・・・・まずい。”
『・・・・・・・・・・・・・・。』
それからというもの、まったく仕事が手に着かなかった。
俺には、最初から重すぎる話だったのだ。
それと”なぜ!俺はあの時、あんな事を言ってしまったのか!”という、
自己嫌悪に押し潰されていた。
あいつの気持ちが痛いほど分かるだけに、辛かった。
そして、自分の”小ささ”が悔しかった。もっと、・・・・・・・
この気持ちは、同じ話を聞かされたチームのメンバーである有賀・望月も
同じだったであろう。
有賀や望月とも話してみたのだが、けして軽くなるものでは無かった。
”所詮、俺たちは、サラリーマンなのだ”と、分かっているのだが・・・・
この憤りをどうにも抑えることができなかった。